桜の花の浮かぶ水槽で
鯖も泳いでます
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my golden witch&my red phoenix
そして、私の終焉を見届けて下さい。
「ばっとら~? 暇かァ?」
明らかに俺は思考中だというのに、この魔女様は、答えも聞かずゲーム盤を隅に追いやってしまう。
「おいてめぇ、何してんだよ」
「何って……お片付け?」
「すんなよ! 使ってるんだよ!」
「良いではないか。妾は少し休みたい」
ベアトはそう言うと、先程ロノウェが俺にと持ってきた紅茶を、躊躇うことなく勝手に飲む。
飲むなよ他人のを。……口、付けなくてよかったぜ。
「うるせぇ。一人で休めよ、俺は関係ねぇッ!」
「……けち」
ベアトは、先のゲーム中よは様相を変えたように、しゅんとして引き下がる。
……何だよケチって。こっちはゲームに集中したいんだよ。
俺は、早く帰らなくちゃいけねぇんだ。たった一人の妹の、縁寿の為に。
不服そう、というよりは、どこか落ち込んだ様子のベアトを、視線だけで見送る。
そして、それ以上余計なことは考えないようにして、元の位置に戻した第四のゲームを再び覗き込んだ。
――――
抱きしめた、腕の中のベアトは、冷えていくようだった。
このまま消えてしまいそうだった。
けれどけしてそんなことはなく、僅かな温もりを保ったまま、彼女は生きていた。
そして、それに安堵する自分がいたことに、驚く。
目の前の、蒼き剣は俺自身が彼女に突き立てたものだ。
彼女の存在を抹消し、家に帰る為に。それだけを目的に、あらん限り無慈悲に穿ったものだ。
けれどどうだろう。
現実にこうなってみると、胸中に躊躇いがある。
――明確な理由さえあれば、割り切れる筈なのに。
そしてそれは、縁寿が身を持って差し出してくれたんじゃなかったか?
「ば……と……ら?」
「わかんねぇよ」
俺自身に理由はある。無いのはベアトの方だ。
「なんでお前は、俺に殺されなくちゃならねぇんだよ?」
どうして、お前はこんなことをしたんだ?
どうしてそんなに、俺を煽って、早く決着をつけようとしているんだ?
……そうさ、知らなくちゃいけない。ベアトの中の真実を。
わからないのだから、これから知らなくてはいけない。
そうしなくては、殺す資格はない。
俺は、辿り着かなくてはならないんだ。
そう、辿り着く。絶対に俺は。
そして。
お前を殺してやるよ。……出来る限り、優しく、な。
――――
眩しいあなたが好きでした。
あなたの、私の、悲しみを辿ってもいいですか。
(彼女の残酷な言葉は本心じゃないと。心のどこかで理解していたのかもしれない)
そこは、薔薇庭園。
といっても、右代宮の屋敷の庭園でも、勿論、崩れ去った黄金郷のそれでもない。
上位世界の庭園だ。
「ベアト?」
「お師匠様……」
たった一人だった世界に、先代ベアトリーチェの姿を認める。
「どうしたのですか? ゲームは?」
「戦人に一人で休んでろって怒られた」
美しい薔薇園の中に、一つ萎れた薔薇を見つける。
それは奇しくも、盤の上での真里亞の薔薇のようで。
ああ、確かに可哀想だな。この薔薇は一人ぼっちで、可哀想だ。
「一緒に休憩しようとでも言ったのですか?」
「……うん」
その返事を聞き、お師匠様はハァと一つ溜め息を零した。
「彼がそんな心境では無いのはわかっていたでしょう」
「……うん」
だからこそ、少しの安らぎを与えてあげたかった。見事逆効果だったけれど。
萎れた薔薇を手折ると、私はぼそぼそと呟く。
「さあさ思い出してご覧なさい……」
黄金の蝶が舞うと、その花は元の美しい色艶をとり戻す。
真紅。それは愛しい人の、そしてその妹の色。
「お師匠様ァ……頼みがあるんだけどよぉ」
「なんですか? 第三のゲームのような協力は、もうしませんよ?」
「あぁ、わかってるって」
それから紡いだ私の言葉に、お師匠様はいったんひどく開眼した後、穏やかな笑みを浮かべた。
「えぇ、良いですよ。でも、あなたが行かなくて良いのですか?」
「妾は、そんな資格ねぇよ」
「……。わかりました。任せてください、お嬢様」
「よろしく頼む」
そして、私は喫煙室・……則ち彼の元へ、足を踏み出した。
戦人はまだ、怒ってるかなぁとか、本当にどうしようもないことを考えながら戻った。
違う。怒ってるんじゃなく、私のことが“嫌い”なんだから、それ以上に変わりようがない。
……嫌われるようなことしか、してねぇからなぁ。
このままいくと、愛の反対の“無関心”ってやつに行き着いてしまうかもしれない。
けれど、それは仕方のないことだから、本心は隠して、いつも通りにしよう。それしか、もう道はない。
「シンキングタイムは終わったかァ? ベアトリーチェ様のお戻りだぜー! あひゃひゃひゃ」
「おう、やっと戻ったのかよベアト」
「へ?」
予想外の戦人の反応に、私は目を丸く瞠く。
「あんまり遅ぇもんから先食っちまったぜ? あ、そうだ」
「な……戦人……ぅむ!?」
あんぐりと開けた口に、クッキーを詰め込まれる。
「さっきは悪かった。お前だけが悪いわけじゃねぇよな。諸悪の根源はあのロリ魔女二人だし……」
戦人は、自嘲気味に笑う。
「そもそも、俺が情けねぇから悪いんだ」
「あ……あぅ」
それを否定することも肯定することも、もはや出来ない。
残酷な魔女はその皮を被ったまま、彼への想いを全て憎しみだったことにして、高笑うだけ。
「だから俺はもう容赦しねぇ。二度とあんな真似はさせない」
ああ。
真っ赤な真っ赤な愛しい人。
燃える炎の色で、麗しい薔薇の色で、絶対的な真実の色。
「俺は、お前を殺す」
―――私はどうして誰も愛せないのですか。
まだあなたを、私の隣に。放したくない。死にたくない、まだ。
これは愛ではなく恋なのです。
私の手であなたを解放できません。
だからあなたが終わらせて。
今だけは、私のことを考えて。
そして真実を知って下さい。
そう、まだ願っている。
――――
黄金郷の、最小人数は二人だと言われた。
それならばこれこそが、ベアトの存在証明なのか。
ここには今、俺とベアトの二人きり。
尤も、実はつい先程までワルギリアがいた。
今は、ロノウェとともに菓子を作っている。ワルギリアの菓子ってことはあれか? 鯖。
そうなんだろうなぁ、と一人苦笑する。
「……」
笑わない。ベアトは笑わない。
変化するのは、俯き加減だとか、瞼だとか、そんな些細な部分。
それで十分だと、言ってあげれたら良かったのだろうか。
けれど言わない。だってもう一度、笑って欲しいから。
先程、ワルギリアに知らされた真実の破片を思い出す。
「俺は相当、お前を誤解していたみたいだぜ」
そう言いながら、俺はベアトの額にそっと口付ける。
「……これ以上したら寝込み襲ってることになるからなあ……いっひっひ」
だからさ、目を、覚ませよ……?
戦人は、少し瞑目したあと、くすりと微笑んだ。
優しく殺してやる……そう誓いながら。
お前を手放したくないとも、思っている。
俺を動かす理屈はもう、破綻しているのかもしれない。
――――
本当は、ずっと。
謝ってくれていた、君は。
俺の謝罪が聞きたくて。
「こっちです」
「まだ行くのか? 随分奥だな」
先刻ワルギリアに、見せたいものがある、と言われ連れて来られたのは、黄金郷の奥の奥。
「いったい、何があるんだ?」
「ありました。あれです」
ワルギリアが指差した先に、ゆっくりと視線を動かす。
それは……墓石、だった。
綺羅びやかに舞い踊る黄金の蝶の群れに護られたそれは、周りの景色に溶けこんでいて。
そこに何かが存在することに気付けたのは、一点の紅があったから。
その紅は、ゲーム盤の中でよく目にする薔薇だったが、一面の金色のなかではあまりにも真新しい。
「これ……は?」
「エンジェ・ベアトリーチェ卿のお墓です」
「……!」
「あの子が、こんなものを作っていたのは意外ですか?」
「あ……」
それからワルギリアは、ぽつぽつと語り始めた。
彼女の話に、俺は相槌を打つこともままならなかった。
「駒の縁寿さんはカケラごとに生きていますが、エンジェ卿が亡くなったのは事実だ、とベアト自身が言い出したんですよ」
自分にはそんな資格が無いと言って、ベアト自身が墓前に立ったのは謝罪の一度きりだという。
「この薔薇、萎れかけているのをあの子が蘇らせたものなんです。そんなものを供えるの?と聞いたら、あの子、何て言ったと思います?」
『エンジェも、アイツと同じで不死鳥なんだよ。真っ赤な、な』
「俺……ベアトの残酷さは、演技なんじゃないか、って考えたことがあったんだ……」
「そうですか。うふふ、あの子は素直じゃありませんからね? ……戦人くん」
「何だ?」
「……あなたは、ベアトリーチェのお墓を造ってくださいますか?」
――――
来世でまた、逢えたらいいね。
あまりにも静かな大聖堂に、鳴り響く時計の針音。
カチ、カチ。カチ、カチ。
24時00分から進まない、ニンゲンの感覚で言うなら、壊れた時計。
カチ、カチ。針の音は止まらないのに、針は進みも……戻りもしない。
それが、タイムオーバー。
その中で俺はぐっと、黄金の太刀に力を込める。
「第六のゲーム、付き合ってもらうぜ。悪いな」
「「「仰せのままに」」」
その場にいた、ベアトの従者達全員が、躊躇う間を開けることもなく、快く返事を返した。
「ああ……あと、ワルギリア」
「はい?」
「俺は、諦めねぇよ……絶対にベアトを蘇らせる。だから」
造る必要なんか、ねぇ。
「そうですか……御館様と同じですね?」
「そういや、そうだな……」
『ベアトリーチェを蘇らす』なんて。
理解出来なかった祖父様の思考に、今回のゲームでは、大分リンクしていた。
ん……愛がなければ見えないってか? いっひっひ。
「というより、元来から戦人様はゴールドスミス様にそっくりですからねぇ。ぷっくっく」
あははは、という笑声が堂の中を満たす。
ベアト?
やっぱり、俺の望むハッピーエンドには、お前も登場するらしいぜ。
俺は欲張りだからなぁ?
『くひゃひゃひや! 無能なお前に出来るのかよォォ!?』
ああ、そうだぜ。それでこそお前だよ。
出来るかって?
やるに、決まってるだろ。
私の最期を看取って下さい。
けれど出来ることなら、あなたの隣で生かして下さい。
End
――――
October.29.2009
――――
懲りない蛇足
「な……戦人……ぅむ!?」
あんぐりと開けた口に、クッキーを詰め込まれる。
「さっきは悪かった。お前だけが悪いわけじゃねぇよな。諸悪の根源はあのロリ魔女二人だし……」
「ああ……そうだ、ぜーんぶぜーんぶあのドピンクカボチャとパッ〇がわるいのだ~ッ!! うわーんッ」
何気ない行動の結果俺が目前にしたのは、突然泣き出すベアト。
どうやら、本当にベアトはあの二人にイジメられているらしい。
「く……くそ。どうしたら泣き止んでくれるんだよ?」
「クッキー」
俺はテーブルの上のクッキーを掴むと、再びベアトの口にくわえさせてやる。
「たっく、お菓子で泣き止むって子供かよ……あ、おいッ!」
「……ひっく……うわあぁぁぁんッ」
ベアトはさらに激しく泣き出す。
おいおい、これじゃあまるで俺が悪いみたいじゃねーか。
他にも色々試すも、全く効果が上がらない。
「戦人の馬鹿ー!」
俺のせいかよ!
完全にお子様モードに入ったベアトは、ポカポカと俺を殴ってくる。
いつもは怪力なくせに、今日は痛くない。……から、ヤバイ、……可愛い。
進行形でぶつけてくる両腕を、片手で押さえると、もう片方の手でベアトの顎を上向かせる。
「戦人ァ……? ……むぐ!? んん~っ」
……。
「何しやがんだアホー!」
「泣いてる女にはこうしろと親父が昔」
「なに吹き込んでんだよ留弗夫!つか戦人てめぇ親父嫌いなんじゃなかったのかよ!?」
「いや、でも舌はいれてないし、な?」
「そういう問題じゃねーッ!」
えーとだな。
とりあえず、ベアトの顔は真実の赤でしたとさ。
おしまい。
(追記:もうバトベア黄金郷でずっといちゃついてろし。私はそれを壁から見守るんだ! 壁際はjusticeだって熊沢のばっちゃが言ってた!)
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