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桜の花の浮かぶ水槽で

鯖も泳いでます

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Trick or Treat!!

来るだろうな。そう戦人は確信していた。
来ないなら来ないで、その方が戦人には楽なのだけれど、あの魔女のことだ、絶対に来る。
そしてその思考は、直後に真実となる。

「Trick or Treatォォォ! おっ菓子くれなきゃイタズラしちゃうぞぉぉぉッ!?」
「ほい」

ポイと、その場にあった茶菓子を投げてやる。

「な……」
「やったからイタズラするなよ?」

そっけなく言うと、ベアトは悔しそうな顔をする。
それはそうだろう。
どう考えてもこの魔女は、お菓子ではなくイタズラを目当てにけしかけたのだ。

「……ふ……ふははははあひゃひゃひゃ!」
「何だよ、気持ち悪い」
「ダメだぜぇ? 全然ダメだぜぇ……これはロノウェが作ったヤツだろう! だからこれはロノウェから妾への菓子よ! よって戦人から貰ったことにはならない! くひゃひゃひゃひゃッ! ではもう一度チャンスをやろう、Trick or Treat!」
「しゃーねぇなあ。じゃあ、あんまり使いたかなかったが魔法で」
「却下ァァ! そんな愛のねぇことするなよ戦人ぁ? 妾はハロウィンには手作りの菓子しか認めねぇよぉッ!
「……!」

ベアトは、こんな至極どうでもいいことに赤字を連発する。
言葉に詰まり眉を潜める戦人に、気分をよくしてベアトは近づくと、ネクタイを引っ張り顔を寄せる。
首が締まり、表情を歪める戦人に、ベアトは更に揚々と捲くし立てる。

「……ちょ、やめ」
「ほぉらァ? どうしたぁ? 出来ないならイタズラしちまうぜぇ?

げてげてと品のない笑いを繰り返す。
ロノウェの歌詞でその場を収めるつもりだったのだから、戦人の手元に彼の手作り菓子があるわけがない。だから彼女の勝ちは確実なのだ。
尤も、――あったならあったで、喜び勇んで頂戴していく腹積もりなわけで、同時に負けは存在しないと言っていい。
そんな腹中を隠さず、ねっとりじっとりと戦人を観ていると、戦人が突然にやりと口端を上げる

「Trick or Treat」
「は?」

上手く聞き取れなかったが、今、戦人が何か言ったよな? とベアトは首を傾げる。

「いっひっひ、聞こえてなかったのか? Trick or Treat。お前は俺にくれないのかよ」
「な……」
「その分だと考えてなさそうだな。ああ、魔法とか無しだぜ? 自分の赤字全うしろよな。……さて、出来なきゃ何だっけ」

なんだっけ。
ベアトは頭の中でその疑問を復唱する。
なんだっただろう。ほんの数分前の発言だ。しかもご丁寧に赤で語ったはずだ。
ハロウィンに手作りのお菓子を用意していなかったら、どうなるんだったっけ?

――――お菓子くれなきゃイタズラしちゃうぞ★

「わ……妾にイタズラする気かよ?」
「しねぇよ」
「へ?」
「いいか? 俺は菓子を持ってない。お前も持ってない。でも俺はイタズラしない。だからお前もできないんだ

その青き真実を受け、魔女は思わず、ごくりと唾を飲み込む。
つまり、ベアトの連発した赤字は戦人の作戦の内だった?

「うぐ……妾を謀ったのか」
「お蔭さまで、赤字の引き出しかたは学んだからなぁ」

唇を噛むベアト。だがすぐに、不気味で恍惚とした笑いを見せる。

「……ベアト?」
「させてやるよ」
「は?」
イタズラさせてやるっつってんだよ、そのかわり妾もしていいんだよなァ? させてやるんだもんなァ
「……て、おい」

ベアトは意気揚々と、戦人をベッドに押し倒そうとする。

「さあ、どんなイタズラを一緒にし合おうかァ? くっくっくひゃひゃひゃ」
「あああ絶対違う意味のイタズラじゃねーかー! やめろ! 一緒にとか変態だろ?!」
「妾はこの日を楽しみにしてたんだよぉ、シラケさせんなよ……?」
「囁くな心臓に悪い! つーかテメェ、祖父様のこと言えねぇじゃねぇか!」
「抵抗すんなよいやしてもいいなそのほうが愉しいぞ! さあ脱げ妾の家具になれ」
「やめろわかった! 作るから、菓子作るから!」

ぴたり、とベアトの動きが止まる。まるでねじ巻き式の人形が、その蓄えを失ったように。

「……作れんのかよ」
「ああ、まあ簡単なのなら。少なくともお前よりはな。面倒臭ぇけど」
「いや、ダメだ作るな! 妾が一方的にイタズラされることになるじゃねぇか!」

恍惚とした表情から一気に蒼白になる。よくもまあこうまでころころと顔色を変えられるものだ。
戦人は「いや、俺はお前みたいなのはしねぇよ。やって顔に油性ペン程度だ」と心中ツッコみながら、それを言ったらまた調子に乗りかねないと飲み込む。

「まあ……そうなるな。ベアトだって今自分だけする気だっただろ。家具とか言ってたし?」
「わ、妾はいいのだー!」

ジャイアニズムな強い口調とは裏腹に、何故か警戒体勢に入っているベアト。人を何だと思っているのか。
心底呆れつつ、戦人は深く溜め息を零す。

「じゃ、一緒に作るか」

ポン、と優しくベアトの頭に手を置き、そのままクシャクシャと撫でる。

「へ?」
「そのかわり、イタズラは無しな」

いたずらっぽく言うと、にかっと陽気な笑顔を見せる。ただそれが、彼の幼い妹と同じ扱いにも感じて、ベアトは少しむくれる。
(シスコン戦人の“妹と同等”はかなり上位なのだが……)

「妾は戦人に生クリームを付けて食べたいぞ」
「うおい! 何言ってんだテメェは!」

無邪気な発言に予想外に大袈裟な反応をされ虚を付かれたのか、ベアトは思わず視線を逸らした。

「じょ、冗談だぞ」
「いや本気だろ……」
「食っててついたら舐めてやる」
「気をつけるぜ」
(ちぃ、そんなに嫌なのかよ……)

結局、憎まれ口を叩きながらも、二人は案外仲良く厨房へと向かったのだが。


ベアトのトンデモ料理のせいで手間取るも、何とか形にはなったそれを、食べるときうっかり生クリームを付けた戦人を、ベアトが本当に舐めてしまったのはまた別のお話である。

(さて、戦人様のどこを舐めたのか? ……それはご想像にお任せしますよ、ぷっくっく)



End


――――

October.31.2009


元の文が悲惨だったのでこれでもかなり手直ししました^^;
これで手直し済ってどんだけだよ……。

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