桜の花の浮かぶ水槽で
鯖も泳いでます
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be ill-matched with
※EP1ラスト捏造
※霧江犯人説前提
※霧江犯人説前提
本当に驚いたとき、人は多分何も言えなくなると思う。言葉を発する為の思考回路を、状況理解に使うことになるのだから。
それならこうして言葉が零れた俺は、そこまで驚いてはいないないのだろうか。
――結論を言えばYESかもしれない。
いくつかの可能性の一つとして、それは俺の脳内に存在していた。
でも……だからって……な?
「何でだよ……」
親族がみんな――ここにいる従兄妹達以外は――殺された。
使用人達も。一人残らず。
直前まで、俺達と共に行動し、守ってくれていた夏妃伯母さんも、今は足元に倒れている。既に息はない。
殺されたのだ、目の前のあの魔女に。
真里亞が駆け寄ったあの人に。
……本当彼女が魔女だったなら、肖像画のベアトリーチェだったなら、良かったのに。
そうしたら、そうしたら。
「な……何やってんだよ霧江さん!? 死んだ、はずじゃ」
ボーン、ボーンと終幕の鐘が鳴る中で、不気味な笑みを浮かべるその人は、あの尊敬する霧江さんそのものだった。
「……わかってるでしょう? クス」
つまりはそういうこと、とウィンチェスター銃をこちらへ向けて言う。
「あ……あんたが犯人なのかよ!? いや、答えなくてもわかるぜ。どう見たってあんたが今、母さんを殺したんだ! あんたが殺した、父さんを! みんなを! 嘉音くんを!」
最初は唖然としていた朱志香が、霧江さんの挑発的な言葉に弾かれたように激昂する。
「クス。そうね」
「な……! そんなあっさりと!? この殺人鬼! みんなを返せよ!」
朱志香が銃を気にもせず勇猛に霧江さんに近づこうとするが、真里亞を人質に捕られていることに気づき、足を止める。
「大勢が理解出来てないみたいね? ダメよ、動いちゃ」
「……ッ」
朱志香は悔しそうに唇を噛む。
直ぐさま復讐を果たしたいところだが、それは真里亞を犠牲にするより優先することではない、と判断したらしい。乱暴だが根の優しいヤツだ。今は運悪く、それが祟っただけのこと。
「朱志香ちゃん、落ち着くんだ。……それより僕は、聞きたいことがある」
「何?」
「紗音は、生きている?」
兄貴の言葉に、俺ははっとする。
そうだ、霧江さんが生きているということは、他にも生存者がいてもおかしくない。
特に、霧江さんと同じ第一の晩ならば。……それはつまり、そいつも一味、ということになるのだが。
「紗音ちゃんはこちら側の人間よ」
「……! じゃあ」
兄貴は途端に表情に明るさを取り戻す。不謹慎で残酷なそれは、それでも今の兄貴には赦される気がした。
しかしその僅かの希望を、霧江さんは一瞥で叩き捨てる。
「要らない駒はもう、棄てちゃったけどね? クス」
霧江さんは歪んだ笑みを見せ、吐き捨てる。
棄てたという事実よりも、それを聞いた兄貴の反応を楽しんでいるのだ。
「な……」
「クスクス。ごめんなさいね。でも残念ながら、既にこの世にいないわ。留弗夫さんに聞いたわ? プロポーズするつもりですって。それとも、もう既に済んでたのかしら、クス。……でも当の相手はいなくなっちゃったわね」
余計な期待をしたせいで彼は、もう味わう必要のなかったはずのこの日――日付的には正確でないかもしれない――何度目かの絶望を味わう。
絶望というのは、そのまま叩き落とされるよりも一旦上げられてからされる方が大きいと聞く。
兄貴も例外ではなく、もう反駁の気力すらないように見えた。
「何だよそれ。じゃあ親父も仲間ってか?」
「ええ。末路は紗音ちゃんと同じだけどね?」
「親父も裏切ったのかよ。……あんた、何がしたいんだ?」
「簡単よ。財産目当て。右代宮の財産を実家に持ち帰るのが任務。だから縁寿を置いてきたの」
「は……財産? 金? そんなものの為にこんなことしたのかよ!? そんなものの為に母さん達を!?」
激しく激昂する朱志香。
紗音、紗音と繰り返す譲治の兄貴。
わけがわからないと、ひたすら霧江さんにしがみつく真里亞。
三者三様の反応をする中、俺は何故か冷静に状況を眺めていた。
……あれ? 俺、さっきまでみんなと一緒に「真犯人に一発かます」なんて、……言ってなかったか?
「私を殺したい?」
霧江さんが、朱志香をさらに挑発する。
「当たり前だぜ! そう言ったらさせてくれるのかよッ」
だけど、どうせそんなことさせてなんかくれないんだろ。
そう付け足した朱志香は、不愉快さを隠さない。当然だ。
「いいわよ」
「え……」
あまりにも呆気ない承諾に、真里亞を除く全員――といっても、もう三人になってしまったが――が目を丸くする。
「でも、それはあなたにではないわ」
霧江さんは隠し持っていたらしい拳銃を取り出すと、あろうことか、俺に向かって放り投げた。
「へ?」
「選択権はあなたよ、戦人くん。拳銃ならあなたでも撃ちやすいでしょう。さあ、私を殺しなさい? 殺さなければこのまま従兄妹達を皆殺し。わかるかしら。あなたも手伝うのよ」
「……!」
声で何となく頭に入ってきていた情報が、手元の銃により、確かな現実性をもつ。
「お、俺が……霧江さんを?」
「戦人、早く撃っちまえよッ! あいつはみんなの敵なんだ」
「戦人くん……」
兄貴も弱々げながら、俺に同じことを期待しているようだった。
「ああ、早くしちまえよ……! クソ戦人! 意気地無し! いいよもう私に貸せ!」
「あら、戦人くんの手元から離れた時点でゲームオーバーよ?」
霧江さんは、あなたに殺せるのかしら? とでも言うように、微笑みを称えて目配せてくる。
――あ、ああ……ああ。
はっきり言おう。心は、とっくに決まってる。
けれど、それでも。
勇気が持てない、この引き金を引く勇気を。
「戦人くん、辛いだろうけど、僕達を代表して撃ってくれないかな」
「戦人! お前も復讐したいだろ!? なんで躊躇うんだよ」
「「撃たなきゃ、みんなが助からないんだよ」」
ぷつん、と俺の中で何かが切れる音がした。
あるいは、希望(言い訳)を見つけたときの幼子の心境。
何やってんだ、俺。
勇気持てないとか馬鹿だろうか?
朱志香の言う通り、意気地無しの無能だぜ。
自分の手を汚さずに人を守るとか、甘ったれもいいところだ。
俺は手にした拳銃のセーフティを外すと、銃爪に指を掛ける。
そして、標的に照準を合わせ、……それに力をこめる。またたきほどの間もなく、鉄の口が火を噴く。
朱志香に向かって。
「なっ……戦……!ぐは……ッ」
それは初めて撃ったにしては上手いこと、朱志香の胸を貫く。
「戦人くん!? 何やってるんだい!?」
敵は、あっちだろう……?
口をきけなくなった朱志香に代わって、兄貴は信じられないものを見るように、そう言う。
俺は黙ったまま、銃爪を離さず、今度は兄貴に銃口を向ける。
「いいわ、戦人くん。私が始末する」
「……。よろしく頼みます」
「な……」
驚愕を隠せない兄貴に、霧江さんは心底面白いものを見るように嘲笑う。
「何? 戦人君が自分達を選んでくれるとでも思ったの? ふふふ、面白い子ね。六年も会ってなかったたかが従兄なのに」
霧江さんは俺の選択を予想しきっていたらしい。勝算あってのお遊びってやつか。
「それどころか、その前の十二年間も一年に二日の親族会議のみで二十四日間。仮に三日としても三十六ね、今年を含めて八かしら。赤ん坊の頃を含めればだけど」
「それは……でも、義叔母さんさんだってそんな変わらないはず……」
「あら、結構親密よ? ねぇ」
「……」
「戦人くん!? 確かに彼女は君の義母だ。だけど間違いなく彼女は親族を皆殺しにした殺人犯なんだ……。君だって、復讐したいはずじゃ」
「縁寿」
「え?」
「俺は、縁寿から母親を奪えねぇ」
母親が殺人犯で、親族のみんな殺して、なんて伝えられない。妹の人生まるごと奪うようなこと出来ない。
まして俺が殺すなんて……!
初めは、確かに憎らしかったのだ。父親が外で作った子を、受け入れられなかった。
けれどゆっくりと時間が経つにつれ、純粋に向けてくれる笑顔に、ほだされていって。
例えばこの間取ってやった髪留めだって、特に意味はなかったのに、あいつがあまりにも嬉しそうに笑うものだから、本当に特別な物のように思えてきて。
今はただ、幼く愛しい妹を守りたいと思っていた。
「あとさ、冷めたんだ」
従兄妹達と、縁寿と。殺された親族達と、霧江さん。
割合は不平等なのに右に傾いた天秤は、けれどまだどちらにも落ちずにいた。それが、
「みんなで助かろう、ってさ。結局ただの命乞いじゃねぇかよ」
……ようやく、落ちた。
霧江さんの言う通りかもしれない。
その時俺の中で、彼らに縁寿と比較するだけの重さがなかったように思えたのだ。
響き渡る二発の銃声。
一発目は譲治の兄貴。二発目は真里亞。
銃口を向けられた真里亞は、これで黄金郷へ行ける? と尋ねた。
それに対して霧江さんは、「ええもちろん」と微笑んだ。
殺人シーンとは思えない朗らかさがそこにはあった。逆にそれは、恐ろしいとも言える。
真里亞の絶対の死を確認すると、霧江さんが俺へ振り返る。
「どうぞ、殺してくださいよ。俺も“用済みの駒”でしょう」
この計画は、生き残りを出してはいけないのだ。
仮に今は味方だとしても、生かしておくのは情報が漏洩する危険性を放置するということ。
だから、朱志香を撃ったときから俺には、その覚悟があった。
「早くしないと爆発に巻き込まれるわよ。設定は二十四時。」
「え?」
「ああ、昨日の夕方に時計が一時間に三分遅れるよう細工したからまだ一時間以上余裕があるのよ」
「いや、そうじゃなくて」
「殺さないわよ」
霧江さんはきっと拍子抜けた顔をしているだろう俺の腕を掴むと、ぐんぐんと歩き始めてしまう。
そのまま、見慣れない屋敷――本家と大きさが変わらない、なんのための屋敷だ? ――を通過すると、これまた見慣れぬ船着き場。
そこには既に船が泊まっていた。
「須磨寺の船よ。乗って」
「あ、あの」
「縁寿がね、あなたのこととっても慕ってるの。父親以上にね。だから殺さないわ、戦人君の理由と同じ」
「いいんですか」
「……勿論、須磨寺の檻から、二度と出れないようにするわよ? そうね、縁寿や私達にしか会えないように」
まだありもしないはずの枷が、手首足首に嵌め付けられるのを、俺ははっきりと感じた。
朱志香を殺したのだから、みんなを見殺しにしたのだから、これはきっと罰。
そして、罪悪感から逃れる甘い罠でもある。
妾の紡ぐ、永遠の檻とどっちがいい? と耳の奥で魔女が言っていました。
(だから俺は、魔女の囁きに耳を貸しそうになるのです)
End
――――
November.3.2009
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