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桜の花の浮かぶ水槽で

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an exception


ゲーム終了後に上位と下位が完全に別れ、下位戦人は家に帰り、煉獄の七姉妹は家具を引退、普通の高校生として生活し始めるというパラレル(?)
戦人は下位の方ですが、主である上位戦人の記憶が僅かに入り込んでる設定。






例えばの話。
おやつを賭けてじゃんけんをするとする。
真っ先に勝つのは五女。次が六女で、最後まで負けるのは一つ下の妹。
そして、おやつを貰えるかどうかのギリギリのところでで負けるのが自分。

例えば。
誰かと対戦するとする。
そんなとき、一人だけ闘わされて一人だけ負けるのが自分。
負ける時に限って駆り出されるのが自分。
(たまに三女が代わってくれるけれど)

さらに、上司の機嫌が悪い時。
たまたま居合わせて、代表でとばっちりを受けるのが自分の役目。

つまり、自分は運が悪い。そして間が悪い。
揚句、それを断れないプライドを持っている。
(それを持っていることこそが一番のプライド)

そう。
いつも自分は、ハズレクジばかり引かされてきたのだ。
妹達の代わりに、いつもいつも。

生意気だけど可愛い妹だ。たまなら良い。
例え傲慢のその大罪が素直になることを邪魔しても。

だが、毎回毎回なら話は別だ。やってられない。
けれど、自分がやってられないかどうかは全く無視して、ハズレクジの束が山積みにされていくのだ。


だけど――

(今日、私は久しぶりに当たりを引いたわ!)

このたび煉獄の七姉妹は、ベアトリーチェの家具を引退、普通の女学生として高校に通う事になった。

妹達と別れ、担任に案内され職員室を出る。
握りしめるのは直前に手渡されたプリント。
そこには、今日から自分が加わるクラスの全員の名前が載っている。

もう一度その紙を確認し、思わず顔が綻ぶ。
プリントの初めの方に印字された、彼の名前を視界に焼き付けて。今日は本当に運が良いようで、ずっと手元を見て歩いていても一度も躓かない。
あっと言う間に教室の前に着き、教師の後を追って室内に入った。

第一声。まずここが勝負。

「は、はじめまして……ろ、呂ノ上ルシファー……で……すッ」

呂ノ上、というのは仮の苗字だ。
多分説明しなくても由来は分かるだろう。

転校生として教壇の前に立つルシファー。
事前に説明はされていたようだが、それでもクラスメイト達はざわめく。
特に、超美少女の転校生に男子は色めき立つ。
何だその名前、という声も勿論あるが、そこについての反応が普通より些か鈍いのは無論前例であるあの男がいるからだろう。

挨拶もままならないままに質問攻めが始まり、中には席を立って出て来る生徒も。……予想外の行動!
もちろん、人間社会に慣れていないルシファーは過剰に反応する。

「む、無闇に近寄るな無礼者ッ」

その一言で、しん……と静まり返る。

(し、しまったつい)

傲慢のルシファーは、人間になっても傲慢。
ついつい妹に言うような激しい口調で叱咤してしまう。

やばい、第一印象最悪。さすがに初対面の人間達相手にこれはナイ。
自分一人では取り繕え無いレベルではないか。
ルシファーにだってそれくらいわかる。
わかってしまうからこそ頭が煮え立ってパンク状態になる。
担任も少し引いたらしく、なかなかフォローに回ってくれない。

すると、一人の男子生徒が口を開く。

「ひゅう! カッコイイーぜルシファーちゃん? 気の強い女の子は嫌いじゃねーぜー?」

やけに長く感じた乾いた沈黙を裂く。
見慣れたはずなのに立たれると尻込みする長身に、冗談のような形の赤髪。

「おい戦人ぁーお前いきなりナンパかよ」
「へ? 何が?」
「……あー、こーゆーのマジで言ってるのが戦人だったな……」

(ば、戦人……!)

緊張のせいで目立つ容姿のはずの彼を見つけられずにいたが、向こうから話しかけてきたことでルシファーは安堵に頬が緩む。

そう。
ルシファーが言う"当たりクジ"というのは戦人と同じクラスだと言うこと。

「何の話だよ? えーと、とりあえず、お前日本人?」
「え、あ違うわ」
「んじゃ日系か?髪の色とか顔とか日本人っぽいと思ったんだが、名前、お仲間じゃねーとは残念」

そう言うと、いつも通りのクセのある笑いをする。

……彼は、かつて自分達の主だった魔術師ではない。
彼と同一人物でありながら別人、下位世界の戦人だ。
だから彼は自分達を知らない。

けれど、人間に慣れない……とくに、人付合いが上手とは言えないルシファーにとって、見慣れた人がいるのは重要で。

屈託のない人柄もわかりきってるし、こうやって話し掛けてくれる安心感もある。
何より、上位での彼はルシファーをハズレクジから解放してくれる数少ない人(?)だった。
(バレンタインだったり、第六のゲームの使役だったり)

ぴったり一人ずつばらばらに分けられた全7クラス中の当たりの1。
ルシファーにとって充分な幸運。
実は、ルシファーには他の姉妹とは違う、戦人と一緒のクラスになりたい乙女の事情があったのだけれど、妹達には秘密。
(他の姉妹達がどうかはわからない)

「外国人!? すげえ! まあ戦人なんて名前してる日本人お前くらいだって。なあルシファーちゃん、こいつ戦人って言うんだぜーバトラ」
「知ってるわ」
「知ってる? え、知り合い?」
「あ、いや……会話で」

とってつけたように――まさにそうだが――言い足す。
いけないいけない。初日から怪しい発言をしてしまった。

ちらり、と戦人の方を覗き見る。
色んな意味でさすが戦人、深い意味を全く気にしていない。
周りは『戦人がまた得意の天然で女の子を~』とか噂しているが、否定できない立場なだけに肩身が狭い。
そんな周りも全く理解していない彼がある意味羨ましい。
というかこいつは学校でもこうなのか。

(まあそうよね……場所で態度変える性格のヤツじゃないし)

なんとか他と話を合わせながら、相変わらず戦人をチラチラと見る。
しばらくして視線が合うと、ルシファーが慌てて逸らす前にニッと歯を出して笑う。

「今更な気もするが、はじめましてだぜ。これからよろしくな!!」
「は、はじめまして……よろし……く」

語尾が少し弱くなる。
それは、緊張しているわけでも勢いに押されてるわけでもなければ恥ずかしがってるわけでも無かった。ただ。


……本当に、今更。

(あんたにははじめましてでも、私にとっては違うのよ)




「戦人くーん、お昼食べたぁ?」
「購買のパンだと?買いに行く必要はない、私の弁当を分けてやろう」
「うわぁぁんっベルフェズルイ!!だいたいなんでお弁当二個持って来てるのよー!?」
「……なんで俺?」

(なんで来てるのよ……! お前達ぃぃ!)

しかもいきなり一緒にお昼?!
クラスメイトになったルシファーならまだ分かる。多分、クラスメイトで一番会話したのは戦人だし。
(それでもやっぱり図々しいような気がして、結局声をかけられなかったけれど)

だが、何故その妹達まで?
どう考えても不自然すぎる!

「美味しそう! 貰っちゃえっ」
「ちょっとベルゼ姉はしたなーい」
「みんな同じ具材だぞ。ベルゼには他の三倍容れたはずだが」
「何やってんのよあんた達ー! 戦人様が困ってるじゃない!」

ガシャン!
三女がいきなり机を叩き立ち上がる。
騒がしい姉妹達にピキピキと着実に青筋を立てていた彼女の憤怒の性が、ついに爆発したのだ。

「「「サタン(姉)(お姉様)……」」

……終わった。

「「「戦人"様"ぁ――――!?」」」

クラス中の綺麗にハモった声に、いきり立ったサタンはようやく自分の失言に気付いた。

戦人は頭を捻る。

(……会ったことがあるような気もする、ようなしないような)

ルシファーを見た時も思った。
けれど、そんな事実はどんなに記憶を遡ってもない。

「ちょ、何? 戦人様って」
「まさかファンクラブ?w」
「右代宮君、すげえ」
「シェア広」
「いや、流石に冗談でしょ」
「でもなんか『つい言っちゃいました☆』な空気漂ってたし」

……サタンこの後フルボッコ決定。姉妹達はそう固く誓った。

一方当の戦人。

「ろのうえ……ロノウェ……」

聞いてない。
あんなに大声で騒いでいたのに。
変に耳聡い所もあるのだが、肝心な所は聞き逃すのが彼のデフォルト。

「呂ノ上……源次さん? ああお前ら、もしかして源次さんの親戚か?」

滅多に苗字で呼ばない本家の使用人の名を出す。
七姉妹五女、マモンはチャンスとばかりにその発言に乗っかる。

「そうなのよ! この前の親族会議の話を源次様に聞いてー、私達の転校先にそこに来てたお坊ちゃんが来るとか聞いたから、会ってみたくなっちゃって」
「サタン姉ったらマヌケだから、源次様の呼び方のまんまで呼んじゃったんだよねー?」
「あ、でも私達も家……使用人みたいなもんなのでー、本当は礼儀とか必要なのかなーとも思ったりしたんですけどー」
「逆に気を使われると思い、なるべく自然に接するよう心掛けだのだが……」

(お、お前達の自然は突然押しかけた上初対面で馴れ馴れしくすることなの!?)

次々に言い訳を上書きしていく妹達に思わず心の中で叫ぶ。口に出さなかっただけ自分を褒めよう。
とはいえ、機転の効く彼女らに感謝もするわけだけれど。

「あーなるほどなー」
「「というわけで、このテンションで行くのでヨロシクー!」」
「おう、それがこっちも楽で良いぜ」

きゃいきゃいとはしゃぐ下の妹達。
クラスメイト達はまだ戸惑ってはいるが、外国人であることを思い出し、そんなもんかと納得したようだった。
このテンションは、煉獄の七姉妹限定だと思うけど。

なんだかんだで戦人は彼女達や友人達に囲まれ、昼食をとり始めている。
ベルフェゴールはちゃっかり弁当を押し付けることに成功したようだ。
源次の親戚とわかり信用しきっているらしい。
上位世界に戻ったような、わいわいと賑やかな食事風景。

そういえば、上位世界では殺すだのなんだの物騒なこと言ってたのに、休憩時間は結構和やかで楽しかった。
その時の様子を見ているよう。




……え?




(なんで私、"見ている"の?)

どうして"あの中"にいないの?

そうだ、同じなんかじゃない。
景色が違う。

妹達と、みんなと、……戦人と。
騒いでた自分があそこにいない。



(本当、要領悪いなぁ……私)


「そういやさっきの話? ルシファーは俺のこと知らねーって言ってたけど」
「あー、姉妹間でも違いはあるのよ! ルシ姉はそん時いなかったかも?」
「へー仲良いんだねー呂ノ上さん達」
「「そうでーす、私達仲良しでーす」」

戦人達の楽しそうな声。
自分の名前がしてふと顔を上げるが、こちらを見ているはずもない。

「そういや、色々あってツッコミ忘れてたが、お前ら七つ子ちゃんなんだよなー」
「ええ、そっくりでしょ?」
「おー、不気味な程そっくりだぜ。一卵性で七つ子ってすごいよな、なんか、先にルシファーと挨拶したせいか、はじめましてって言うより――――」



ドクンと、ルシファーの心臓が跳ねる。


「久しぶり! って感じだな」



……どこが、当たりクジなんだろう。

(私だけ、私だけ仲間外れ)

お弁当の輪に入れなかったのは、わかってる。
ルシファーに勇気がなかったから。

でも、これは。

(まるで、私のことだけ覚えてないみたい)

上手く耳に届かないけど、向こうで妹の誰かが久しぶり、と元気よく返す声がした。
本当に覚えてるわけじゃないのだから、自分がそう言われたら虚しいだけかもしれない。
だからこれは、不毛な悩みなのかもしれない。
(彼が記憶を取り戻すことはないのだから。駒の彼に、取り戻す記憶はないのだから)

でも。

(私には"はじめまして"で、みんなには"久しぶり")

その違いが、痛い……。

「ベルフェ姉、次のお弁当ー!」
「これで三個目だ、最後だぞ」
「えー!?」
「よく食うなぁ、縦ロールの姉ちゃんは」
「戦人くんもかなり食べてるじゃないっ。まあ、ベルゼは食べるより喰らうっていう表現が相応しいレベルだけど!」

あはは、と笑いに包まれる。

(何やってるんだろう、私)

席から離れられないで、楽しそうな宴を見ているだけ。
いや、聞いているだけ。
机に突っ伏して、もう一度彼らをの方へ視線を移す。アスモと、目があった。
色欲を冠する一番下の妹は、何か言いたげな表情をしている。

……?

暫くすると視線を外し、その瞳で戦人を見た後、再びこちらへ向ける。
いったい何がしたいのかさっぱりわからないルシファーは、首を傾げる。
すると、アスモの唇が動く。


い・く・じ・な・し

「な……っ」

思わず睨みつける。……でも。

(うん。本当に……そうだわ)

確かに自分は意気地無し。
上手くいかないかもしれない、と躊躇ってばかりで、当たりクジを待つなんて受け身の姿勢を取って。
自己嫌悪はするのに、そのあと何かをするわけでもなく。

(私は煉獄の七杭長女、杭は勢い勝負なのに)

それでなくても、※はスピード勝負。
アスモが、自分の斜め向かいを小さく指差す。

(席、とっておいてくれたんだ……)

そうだ。頑張れ。
頑張れ自分。
ルシファーは意を決し、自分の席を発つと、みんなの元へ向かう。そして。

「わ、私も一緒に食べて、良い……?」

……。

妹達は、ホッとしたような、少しニヤニヤしたような顔でルシファーを見る。
少しいけ好かないけれど、心配してくれていたらしい。
他のクラスメイト達は戦人を見る。
きっと、ルシファーが戦人に言っただろうことがわかったから。

「あ、あの……っ」
「ようやく腹減ってきたのかー? 姉妹でも腹の減り方って違うんだなー!」
「……」
「「……」」
「「「……」」」

「ん? どうした? 早く座れよルシファー」
「え、ええ……」

(もしかして、私、不安になり損?)

わかってたじゃないか……戦人の性格なんて。
上位の戦人より鈍感さがパワーアップしているような気がしないでもないというか物凄くするけど!

「へーえ、戦人君ってー」
「ん? どうしたよツインテールの姉ちゃん」

アスモが戦人を見てニヤリと口端をあげる。
それを見て、その手のことに敏感な一部の者も云わんとすることを悟る。

「私達姉妹の中で、ルシファーお姉様だけ名前で呼ぶんだねー?」
「「え?」」

同時に上げた驚声に、浚に悪ノリした者達が戦人の顔を覗き込む。
(一部和やかでないオーラを発する区域があるが、今の所それは無視)

「私達は髪型+姉ちゃんなんてヒドイ扱いなのにねー」
「ズルイズルイー! どうしてルシ姉だけ特別なの?」
「へ? だって自己紹介したし」
「「私達もしましたー」」
「いや、んないっぺんに言われちゃ覚えられねーよ! それにほら、ルシファーはクラスメイトだし」




どうやら、ちゃんと当たりだったようです。
(君の一言が刃にもなる、君の一言で笑顔にもなれる)


End



――――


Junuary.26.2010

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