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桜の花の浮かぶ水槽で

鯖も泳いでます

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Tea Party

傘越しに雨を感じていた。
その雫は重力に従って勢いよく、鉄砲玉のように布地に突き刺さっている。
だから、ぶつかって幾度か弾んだ小さな雨粒は、返り血と言っても良かった。

薔薇庭園の闇から再び――反対側から姿を現した戦人は、電話を寄越した父の姿を探していた。

礼拝堂。
何事も無ければ足を向けることはなかったそこに、彼は歩を進める。不必要にのんびりと。
正直に言えば、テストなど面倒なことこの上ない。
そもそもあんな親の面目を立ててやることもないのだが、戦人自身金蔵の逆鱗に触れることは出来れば遠慮しておきたかった。
それゆえにこの牛歩戦術は、せめてもの抵抗だった。

不意に脇を見ると、絵羽が猛然と駆けていた。真っ暗い森へ向かう道を。
不明瞭な視界からもその切迫さは感じ取れ、祖父の横暴に更に呆れ返るのだった。

しばらく歩くと、戦人は立ち止まる。
どんなに遅くしてもいつかはついてしまうものだ。それでも、これが礼拝堂か、と予想以上に立派な建物に瞠目する余裕があった。
戦人の場所から留弗夫の姿は見えない。
呼び出したのは向こうなのに、まだ到着していないのだろうか。
戦人は何気なく、視線を下の方に向けた。

「親……父?」

そこにあったのは、真っ赤な胸をおさえたまま、息絶えた父の、亡き殻。

……何だよ、これ。
自分に電話をかけてきたのは、間違いなくこの親父だったよな?
なりふり構わず地に頭を付けて自分に謝罪したのは、ここにいるニンゲンだったよな……?

「お、おい、冗談だろ? そうだ、これがテストだって言うんだろ?! なあそうだろ親父、なんでこんな……!」

こんなこと、あって良いはずがない。
戦人は我を忘れて揺すり起こそうとする。
だがそれは、息の根が完全に停止していることを再確認することに他ならなかった。

留弗夫の手元には彼が所持していたと思われるライフルが落ちていた。
しかし、この状況は間違っても自殺とは言えない。
胸を貫いて死のうとするやつがあるか。
特にこの格好つけの留弗夫が、こんな醜い未練面を晒す真似をするものか……!

戦人は拳を握り固めると、礼拝堂の周りを駆ける。
もしかしたら、まだ犯人がどこかに潜んでいるかもしれない。

「なんだよ、この階段。こんなものがあるなんて聞いたことねぇぜ」

ぽっかりと不自然に開いた空洞。地下へと続く階段に風雨が雪崩こんでいた。
……何もないわけがないじゃないか。
戦人は怖じ気づくこともせず、半ば勢いだけで下って行った。

「……っ」

ひどい鉄の臭いだった。
思わず顔をしかめ、手で口と鼻を覆いながら扉の隙間を広げる。

「秀吉おじさん……?」

思わず声をかけるが、反応があるわけがない。
解らないわけがない、留弗夫の遺体をこの目で見た直後なのだ。
こんなに苦悶の表情を浮かべて横たわる肢体が、動く筈がない――

「う、うわああああ!」

血の海。
そうとしか著せない、惨状。
ほんの数時間前まで笑いあっていた親族達が今は、腹に、額に、ぽっかり穴を開けている。



戦人はふと、覚えのない影があることに気付く。
それは、豪奢なベッドに、眠るように横たわている。

……誰だ。
一目では分からなかった。
右代宮家の証である片翼の紋様を刻んだドレスを纏う、女。
そんな格好の人間は知らなかったから、数瞬戸惑う。
しかし、少し近寄って見れば見知った顔。

「あんたは……」
「……」

その、腹から赤いものを流した女は、

「紗音ちゃん? なんでこんな格好……」
「……ん」
「生きてるのか!?」

彼女は微かに呻き、瞼が動く。
そしてゆるゆると、動きだした。
戦人は、腹を庇いながらもひとりで起き上がろうとする彼女を、支えて介抱する。
改めて彼女の負った傷を確認し、寝かせたままにすべきだったかもしれないと後悔した。

「大丈夫か? 一体、何があったんだ……!」
「何故、妾が残ったか……」

もしかしたら、自分のことに気付いていないのかもしれない――そう思うほどに、彼女は明後日を見詰めて呟く。

「紗音ちゃん、だよな?」

ようやく魔女は戦人に視線を向ける。
その瞳は、薄い藍色。
乱れた金色の糸に括り付けた朱い髪飾りがそのまま雫となって滴る。

「違う。紗音は凶弾に倒れ死んだ。我が名はベアトリーチェ、黄金の……いや、今や何も持たぬ、みすぼらしい人形よ」

女は爪についた血を、自らの舌で舐めとる。
尊大な口調で語る彼女――ベアトリーチェは、確かに紗音とは異なる「人間」だった。

「? と、とにかく、早く手当てを……!」

この部屋では、傷口を押さえる程度しか出来ない。せめて南條の元に連れていけたら……。

「こやつらを見捨ててか?」

ベアトリーチェは戦人の背中の先を指差す。
戦人は唇を噛んだ。
生きている人間を助けたい。しかし、こんなにも、凄惨な現場で、たったひとりだけを助け出すことは、それは、――死者への冒涜なのか?

「……ベアトリーチェ、無理はしなくていい。出来たら、話してくれ。これはどうなっているんだ?」

ベアトリーチェは、悲しげに唇を動かす。

「……。妾が、殺した」
「え?」

戦人はぽかんと口を開けた。
否、考えもしなかった自分がおかしいのかもしれない。
だって、4つも殻が転がっているこの部屋で、彼女だけが息をしていたのだから。
だが、どうしても自分は甘いのか、こんなボロボロになった彼女のそれを、言葉通りには受け止められない。
いや、でも――

「ここにいる5人とも、妾が殺した」

戦人は、弾かれたようにベアトの肩を掴む。

「5人? お前がやったという5人を、言ってみてくれないか」

今、彼女からは、戦人の体が塞いで床が見えない。
ベアトリーチェは、自らの記憶の通りに羅列する。

「右代宮夏妃、右代宮蔵臼、右代宮楼座、右代宮秀吉、右代宮絵羽」
「……絵羽伯母さんは、倒れてねぇぜ? それどころか、さっき走っていくのを見かけたぜ」
「――え?」

ベアトリーチェには意外な事だったのか、まごつきながら、それでも自分がやったのだと繰り返す。
その反応を見て、戦人は悟る。
彼女は、誰かを庇っているのだ、と。

「それにお前、親父のことは知らないのか?」
「留弗夫、だと? ……。そうか、この世界はそういうカケラか……」

ベアトリーチェはしばし驚いた表情を見せはしたが、ひとりで勝手に納得してしまう。
何を言っているのかと、聞きたくないと言えば嘘になる。
けれど、何よりも先に、彼女の傷が心配でならなかった。
致命傷ではなかったとはいえ、自分と話している間も何度も意識を失いかけるほどに、その傷は深い。
これ以上語らせるのは酷だ。






どうしても、彼女を助けたい。


それは、人としての正しき意志、理念。
そして、もしかしたら、幼き日の淡い想いの、終着点……




下手に動かすべきではない、が、自然治癒を待つなど愚行。
この、血沼の淵で。
何が最善かと、急速に考えを巡らせる。

そんな戦人を尻目に、ベアトリーチェは虚空を仰ぐ。
彼女が何に想いを馳せているのかは、今の戦人にはわからない。

「そなたが約束を破ったから、全ての歯車が狂ったまま、ここまで回り切ってしまったのだ」

……それがそなたの罪だ。

彼女は、そこまで口にしてはいない。
けれど、ベアトリーチェの目は、顕著にそれを、詰っていた。そう、感じたのだ。

――記憶。







『……一年後』


『ああ、必ず……』







………。
これ、は。

(それは、遠い日の)


諦観したまま、哀しく微笑む。

「この島には、大量の爆薬が仕込まれておる。爆発は、次の24時だ」

絶望だけが押し寄せる現実に、戦人は息を飲む。
ベアトリーチェは奥の通路を指差した。

「あそこを行け。そなただけでも逃れるがよい」

それは、諦めにも、失望にも似た表情。
或いは、自分ではない自分に望みを託すしかないという、享受。

「次の世界では、ちゃんと妾を連れ出してくれよ……」

それが理解できたから、継いだその言葉も予想通りだった。
……見捨てろ、と。

「いやだ」
「……そうか。ならばもう、未練はない」

俯いて嘆息する。

「――嫌だね。そんな願い、1個しか叶えられねぇよ」
「え?」
「次の世界? 何言ってんだ、お前はまだ生きてるじゃねーか! だから半分しか叶えてやらない。俺は“今から”お前を連れ出す、さらう……!」

そう言うと、戦人は、ベアトリーチェを抱え上げる。
まがまがしく積まれた黄金の山に、見向きもしない。

「戦、人……!」
「もういい、喋ろうとするな……! 黙って、しがみついてろ!」

ベアトは、戦人にお姫様のように抱き抱えられると、――不謹慎だが――恥ずかしそうに首に腕を回す。

「白馬は間に合わぬかったのか」
「あ……そ、それはだな」
「抱えたまま飛び降りるのは持ち越しか」
「へ?」
「いや……なんでも」
「そうか? つーか、喋るなって言っても喋るんだなお前は。大丈夫なのか」
「く……平気よ……」

無理をしているのだろう、だが、ベアトリーチェは一向に口を閉じない。
早急に九羽鳥庵に向かうべく、戦人はただ、足を速めた。









《……回避出来なかった惨劇。









あなたの腕の中であなたの足音を聞く、母の育ちし館までの道のりは、






この………










この願いは罪ですか?》



End


――――


August.29,2010

バトベア厨がEP7を総括したらこうなった(`・ω・´)

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