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桜の花の浮かぶ水槽で

鯖も泳いでます

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二言目には" " Scene4

Scene4 バレンタイン当日:幻想世界組

「「えぇぇええぇ??!!!」」

――今年は和やかに終わると良いな。

そんな誰かの願いをものの見事に吹き飛ばすように。
彼女達は同時に叫ぶ。

「ちょっとそれ本当?」
「あんたの聞き間違いじゃない?」
「信じられないんだけど」
「チョコおいしいよ?」
「アスモの勘違いじゃなーい?」
「本当よ! 間違いないんだから」
「えーまじー? ワルギリア様やるぅ☆」
「戦人様……最低だな」
「あんたが言うと信憑性ないわよベルフェ!」
「食べないなら私が貰っちゃうよー?」
「まさかワルギリア様とは……」
「ルシ姉ももっとアタックかければ良いんじゃなーい?」
「ー? 何の話かわかんなーい。それ美味しいの?」
「美味しい……わよきっと。食べ物じゃないけどぉ」
「やめなさいッマモン!」
「じゃあやっぱりチョコのがいいやー、ルシ姉の分貰うね?」
「とにかく! これは報告すべきなのか?」
「しない方が……良いと思うわ」

姉妹達は去年のことを思い出し、そう結論付ける。
ベアトの家具としてならば報告義務はあるが、生憎今は戦人の家具なのだ。
守秘義務もある……多分。

彼女達は互いに顔を見合わせると、頷いた。



「こんな所にいたか、煉獄の七姉妹よ」

顕れたのは、元・無限にして黄金の魔女。
その二つ名を夫に譲り渡した後も、それでも魔界でのその権威は失われない。

「「ベアトリーチェ様!!」」
「戦人の姿が見えぬのだが、そなたら何か知らぬか」

今、最も会いたくなかった人と。
話題にしてはいけない人。

「え、えぇと」
「わ、私達は何も……」
「な、何も知りませんッ」

何も知らない。
だから、どうか自分達には聞かないでくれ。
わざとらしい笑顔を張り付かせる。

「そうか、ならば他をあたるわ」

姉妹達はホッと胸を撫で下ろした。

――とりあえず、先に彼を見つけて問い詰めよう。
事が大きくなる前に。
正直、騒いではみたがアスモの勘違い濃厚だと思う。
どちらにせよ、全世界の為にこの魔女様には話してはいけない。それだけは間違いない。

しかし、彼女達は気付いていなかったのだ。
姉妹の中に、一言も喋っていない者がいることを。
そしてその彼女が、どんな大罪を持っていたかを、失念していた……。

「戦人様ならワルギリア様とご一緒だと思いますよぉ?」
「「ちょ、レヴィア!」」

存在感が薄い事を武器に、レヴィアは姉妹の誰にも気付かせることなくベアトの側に移動していた。

「お師匠様とぉ? そういや、お師匠様の姿も見かけねーなぁ」

「当然ですよ! 今お二人はデート☆中なんですからッ」

アスモさながらの夢見る乙女風ジェスチャー。
女子学生が恋愛話に花咲かせるように。
言ってる内容もその通りで。
ただし、腹のうちは真逆だ。

「……は?」

ベアトは、一文字しか口にすることが出来ない。
レヴィアはその様子にうっとりしながら。

「他にありませんよ! 今日という日に二人で抜け出すなんて! しかもしかも! 昨日! 戦人様とワルギリア様が! 愛を囁き合ってたのを妹がバッチリ聞いてたんですぅうぅぅう!
「「ああぁぁあぁぁ」」



「……。……ほぉおお? 詳しく聞かせろよォ」

恐ろしく低音で。
その場の、レヴィアとベルゼを除く五人がゾクリとした。
顔面蒼白。
こんな時、いつもなら真っ先に泣き出すレヴィア。
けれど今日は、湧き出る嫉妬により特殊モード"K☆I☆R☆I☆E"にシフトされている。

「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ来たわ! ベアトリーチェ様の嫉妬! 燃えたってぎるわ! 


こ・れ・は・勝・つ・る!

お前は何と戦っているんだ。
そんなツッコミを入れられる者は、ここにはいなかった。

黄金の魔女の嫉妬の洗礼を受けようと引っ付くレヴィア。
ベアトは無視して、他の姉妹達にニヤリと笑う。
思わず姉達はアスモを見る。
ほら、あんたが聞いたんでしょ? と丸投げ。

「ほう、アスモデウスがソースか」

安堵する姉×4。
大分要領が良くなったものだ。

「うぅ、ですから、私はぁああ」
「とにかく早く話せ!」


――――


バレンタイン前日。
アスモは一人、翌日のデートのシミュレーション(妄想)をしていた。

(うふふっ! 私とぉ、天草様がぁ、きゃー☆)

チョコはもちろん準備済み。
今年もロノウェ特製だ。

友達以上、恋人未満なら精一杯見栄を張り。
正式にお付き合いし始めたらたぁっぷり愛情のこもった手作りを振る舞うべき。
というのが彼女の持論。

「もちろんっ手作り☆って渡すけどぉ♪」

誰か、この子にも制裁を。……まあ天草だし良いか。

この辺りは、あまり人気がない。
いつもいるロノウェが、気を利かせて離れているからだ。
カツカツと自分の足音だけが響く。電灯が薄暗く少し気味が悪い。

「……て私に……?」

零れる灯り。
不意に、女の声が。

(……?)

上手く聞き取れない。
しっとりとした声がどこか薄気味悪い。

「……にも……べきだと思った……」

次に、男の声。
少し、迷いを含んだ口調。

(戦人様? もう一人は……ワルギリア様だよね?)

「……とクビに」
「……困ります、側にいられなくなって……」

そうっと中を覗く。

(やっぱりそうだよねぇ)

クビ? 側にいられなくなると困る?
どういうことだろう。

“――どういうことだろう。”
そんなモノローグを表向き書きはしたが。
実際の所、色欲のアスモは既に自分の結論に達していた。

(まさかまさかこれってぇ、超展開☆)

次の言葉を待つ。
まるで恋愛小説のページを読み進めるように。
実際、この妄想をあまり本気にしていなかったからこそこれほどまでに余裕なのだ。

「……愛してるでしょう……?」
「……愛してるぜ……心配するな」
「ちゃんと責任は……」

あ、あい?

あい? あい、

……愛?

……責任?

(……っ……きゃ――――! え、えぇえぇ)


――――



「ねぇ良いんですかぁ? これ浮気ですよ?不倫ですよ? 二股ですよ? しかも相手は先代様ですよ? バレンタインに妻をほっぽってどっきゅん☆にゃんにゃん♪ですよー?」

レヴィアが煽り立てると。
魔女の額にはっきりと青筋が立つ。

「―――――――※してくる。ああ※してくるわ、なぁいいだろあいつ※されるべきだよなぁああぁぁあッッッ?」

「お、落ち着いて下さい!」
「アスモが聞き間違えたのかもしれません! というか大方はやとちりです――!」
「ねぇねぇチョコ終わっちゃったー、郷田にあげたの半分返して貰おうかなー」
「勝手にしてろ! それどころじゃない!」
「はーい」
「それに、お二人がデート中なんて言うのはレヴィアの捏造ですから! 私達は知りませんからー!」

予想通りの反応を見せたベアトを必死で宥める。

「おやお嬢様、戦人様をお探しですか?」

ひょっこりとロノウェが顔を出す。
ずっと見ていたに違いない―――姉妹は確信する。

「うむ、どこにいるか知っておるか」

きっとロノウェなら知っているだろう。
真実を知れば、この手に負えなくなった魔女も落ち着いてくれるはずだ。
そう、楽観した。

「ぷっくっく。戦人様でしたらマダムとお出かけでございますよ。おおっと、口止めされていたのを忘れておりましたな。ぷくくく」

「「……マ、マジなの?」」


――――


「ちょっとーせっかく会いに来たのに何? リーチェ引きこもっちゃってるんだけど」

ベアトの親友、ガァプ。
頼りになる露出系常識人。

「それは……かくかく然々で」
「はぁー、成る程ねー」

まぁ、そんな所だろうとは思ったが。ガァプは何度も頷く。

「どうしたら良いでしょうか」
「どうしたらって、直接戦人君に聞いてみるしかないんじゃない?」
「う……でも」
「まぁ何となく想像出来るけど。だからこそ本人に聞くべきよねー♪」

一つウィンクすると。
ヒラヒラと右手を振り、踵を返した。


「うぅぅぅ……」

傷心のベアトは自室に篭もり、柔らかな絹のシーツに突っ伏していた。

「やっぱり※して……良いよなァ……? 被害者は二人しかでねェしよォ……問題ないよなァ……?」

※そういう問題ではありません。


――――



「これはこれはマダムに戦人様。お帰りなさいませ」

革製のコートを脱ぎ捨てる。
一見重厚な――実際そうだろう――それがヒラリと舞い、鮮やかに受け取る執事。

「おう、ベアトはどこだ?」
「お嬢様は自室に……ぷっくく」

そうか、と一言だけ。
頬が心なしか紅い。

(我らが主達は本当に可愛らしい)

「? なんだよ気持ち悪いな」

コンコン、とノックの音がする。

「ベアトー?」
「……」
「ベアトーいるんだろ?」
「……おらぬ」
「よしいるな。入るぜ」
「入るな!」
「お邪魔しまーすっと」

ベアトの咆哮を聞かず、ズカズカと入ってくる。
鍵が掛かっていても領主には関係ない。
黄金の蝶が呼び出されれば、物理的にも魔法的にも解き放たれる。
セキュリティシステムは崩壊しきっている。

「入るなと言ったのがわからぬかこの不法侵入者が!」
「お前だって俺の部屋に勝手に入って来るじゃねーか」
「……煩いわ」

ベッドに顔を埋めたまま。
声をかければ振り向くだろう、という予想が裏切られる。

思えば、少し鼻にかかったような……。まさか。

「泣いてる……のか?」

キッと睨み付ける。
しかし、その目元の潤みは隠せるはずもない。

「煩いと言っているではないか! 黙れこの浮気者があぁあぁぁ!」
「は、はぁ?」
「貴様あれか父親の血か!」
「おい待てよ、なんで親父が」
「自分の胸に聞いてみやがれー! それともあれかァ? 下半身に聞いた方が早えぇかよぉオ!?」
「……話が見えねぇんだが」

そう来たか。
とことん白を切り通すつもりなのか。
それなら、相応の覚悟をしているのだろうな?

別の女との逢瀬から帰ったばかり。
話が見えない? そんな訳がない。
見えないのはこちらの方だ。

……何故ワルギリアなのか。
自分達を、誰よりも祝福してくれた筈の彼女なのだろうか。
簡単に裏切られる失望。
(不思議なことに、決して絶望ではなく)
どうせなら完璧に隠してくれ。
そうでないなら正直に言ってくれ。

(その生殺しが妾を殺せる凶器よとそなたらは知らなんだか?)

せめて見知らぬ者だったなら。
それならば。
――見てみぬ振りが出来たであろう自分が悔しい。
腐っても、……自分は……愛を履き違えた憐れな女。

「そなたはワルギリアといた方が良いのだろう。さっさと出てゆけ」
「だからなんでそこでワルギリアが出て来るんだよ」
「……今日、お師匠様と逢瀬をしておったのだろう。隠せると思うなよ? 妾はそなたをずっと探しておったのに」

何の為?
それは、昨日。
あんなにも厨房が荒らされていたのと同じ理由。

「ベアト」
「もういいわ。そなたが妾に飽きたと言うなら、それで良い。妾も飽きたわ、好きにせよ」

女の"好きしろ"は自分を選べと言うこと。
強制するのではなく。
自らの意思で自分を選んでくれ、と。
本当に失ってしまうというリスクに伴う配当を与えて欲しいと。
そう言っている。期待……している。

――お前は期待に応えてくれるのか。

「ああ、わかったわかった。じゃあ好きにするぜー」
「なッ!」

追えば引く。引けば追う。
駆け引きという名のジレンマ。
(引いて引かれたらどうするの?)

「戦……人ぁ……?」
「ほらよ」
「へ?」

手渡されるそれは。
ワイン色のシックな包装紙に濃紺のリボンとコサージュ。
紛れも無くそれは、"プレゼント"。

(――誰に?)

誰に。
今、誰に差し出されているか。

「今日はこれを買いに行ってたんだ。ワルギリアならお前の趣味を熟知してるからな」

スルリとリボンを解く。
中身は想像通り。
チョコレート。
小さな――けれど明らかに上物の――トリュフが九つ。

「今日はバレンタインだぞ? 何故男であるそなたがくれるのだ」
「知らねぇのか? 欧米では男女どちらからでもプレゼントするんだぜ?」
「それは知っておるが」

戦人は、そんなものを踏襲するような男だったか?
いや、金蔵の孫であるから或いは……

「なーんてな。別にそんなのを意識したわけじゃねぇんだけど。ほら、去年。ホワイトデーにお前が大暴れしただろ?そんとき俺、赤で言っちまったじゃねーか。"俺は今後永久にホワイトデーにベアトリーチェにお返しをしない"ってよ」
「うむ」
「だから、今日。お前に渡したそれがホワイトデーのお返しの代わりってわけだ。ってまだ貰ってないけどよ」
「妾は頑張って手作りしたんだぞ……なのにそなたは市販かよぉ……理不尽だよぉ」
「……」

理不尽なのはこっちだ。
そう言い返すのをすんでの所で堪えた。

昨日。戦人はロノウェの元に向かっていた。
何故か?

(ベアトと、同じで)

調理室の使用権を確認するため。
(領主が執事に確認する必要性はあるのだろうか)

たまにはいいかな、とか、血迷ったようなそうでないような。
しかし、……その後は。
どうなったかは、もう繰り返し説明することはあるまい。
結果、当日に買いに行く羽目になったのだが……。
(ロノウェに頼むのは、去年のことがあった手前避けたかった)

それを言うのは、さすがに押し付けがましい。

「ああああ! ごまかされそうになっておったわ! 妾はそなたが昨日! お師匠様とイチャついておったことを知っておるのだぞ!」
「いや、やっぱり説明必要か」


――――


「ふむ、なるほど。そなたの言い分はわかった」
「言い分って何だ言い分って。それじゃあまるで俺が嘘付いてるみたいじゃねーかよ。……俺、相当恥ずかしいこと喋ったと思うぞ」

何せ、彼女が勘違いしているワルギリアとの会話の殆どは「ベアトへの惚気話」なわけで。
愛のなんたらは、則ち目の前の魔女に対する言葉であって。

「う、うむーん。まぁーそのなんであるかな。それはわかったのであるぞ! えっへん」

動揺がバレバレである。
ああ、これは照れ隠しだな。戦人はそう悟った。

「そうは言っても証明はできまい! 猫箱だぞっ、そなたが観測を偽っている可能性は永遠に存在するのだ! 例えお師匠さまが同様のことを喋ってもだ!」
「さぁなあ。そこはあれだろー『愛がなければ見えない』。違うか? 言っとくが、赤で復唱なんかしないぜ」

赤文字という存在が。
二人の関係を愛と結び付ける存在では必ずしもないと。

「む、むぅ。わかっておるわ」
「だよな。お前の口癖だしよ」

ベアトは子供のように口を尖らせる。
そして。

「その、だな戦人」
「ん?」

顔を真っ赤にして。
いつの間に取り出したのか、彼女が持つのは。

「ハ、ハッピーバレンタイン!」
「……なんだそりゃ」



愛がなければ食えない。
(原材料的な意味で)



――二言目には"愛"――


――――

February.16.2010

バレンタイン当日を思いっきり逃しましたー^^;

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