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桜の花の浮かぶ水槽で

鯖も泳いでます

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絶対幸福論 4

※注意書き

これは、全ての話、第一話から最終話まで共通です。
展開の都合上、注意書きの後出しをお詫び申し上げます。

このカケラのゲームは、ベアトリーチェのゲーム盤とは異なります。
ゲームの主旨は、魔女の否定でも人間によるトリックの説明でもなく、縁寿の幸せの肯定・死守です。
よって、本来魔法トリックの否定のみで使われるとされた青字を「縁寿の幸せ」についてのみ使用出来るとします。

また、赤字もベアトリーチェのゲーム盤には一切関係なく、このカケラのみであることをご了承下さい。

最後に。
どうか、魔法の有無など忘れて、ゲームをお楽しみ下さい。
どうせ、魔法トリックなんて出てきませんから。







箱の中は無限の世界。
覗かなければ広がる世界。

それでも、パンドラの箱は開かなくてはストーリーエラー。
それは強制される物語。

例え、箱の中の猫が死んでいても。
(神様が、箱の中に希望を入れ忘れていたとしても)

パンドラの手は動かされる。
その箱へと、未知の世界へと伸ばされる。

物語が成立するために。
創作者がそう望んだのだから。
(犠牲にされたのは、果たして彼女だけだったのか)






*   *  *  *   *


従兄妹部屋。
細部にまで気を遣って据えられた、磨きあげられた上物の装飾品。
ダブルベッドを二つくっつけた、5人が寝る為のベッドに座らされている真里亞。

十数枚のトランプが宙を舞い、派手に散らばる。
それを手渡した朱志香は小さく彼女の名を呟く。

「ベアトリーチェとは何者なのか?」
何度もそう詰問された真里亞は、ひどく不機嫌だった。

散らばったカードを一枚一枚拾い集める戦人と縁寿。
真里亞の心境は、きっとこのカードのように。
(全て拾い集めるのにはまだ時間が必要)

木製の扉を叩く、軽快なノック音が二つ。
譲治が、次いで紗音が室内に入って来る。
わざわざノックする辺りが律儀な譲治らしい。

「真里亞ちゃん」
「うー、何? 譲治お兄ちゃん」

ぐす、と鼻を啜り。
涙を溜めた目は擦りもせず、潤ませたまま従兄を見上げた。

「実は、紗音ちゃんが真里亞ちゃんに話があると言ってね」
「失礼いたします、真里亞様」

譲治の後ろに隠れるようにいた紗音が、すっと前に出る。

「んーどうしたんだぁ紗音?」
「実は……」

紗音は思わせぶりに微笑む。
なんだろう。
真里亞が食いついた様子を見せると、「これを見て下さい」と彼女に差し出す。

真里亞は。否、その場の二人以外の人間が。
目を瞠く。

優しく包み携えられていたのは、白磁の花瓶に挿された一輪の薔薇。
薄紅の花弁は昼間見た時より元気になっていた。
けれど、結わえ付けられたオレンジ色のモールは真里亞が付けた物と同じだった。

「うー! 真里亞の薔薇! どうして紗音が持ってるの? うー!」
「庭のお手入れのときに元気がないのに気付いたんだって。元気にしてあげるために摘んで花瓶でお世話してくれていたんだよ」
「申し訳ありません、モールがついていたので気になってはいたのですが、まさか真里亞様の薔薇を勝手に摘んでしまうなんて……」
「うー、良いの。真里亞は真里亞の薔薇が帰って来たから良いの! 元気にしてくれてありがとう。真里亞が育てて良いんだよね?」

真里亞は目を輝かせ、興奮気味に尋ねる。

「もちろんだよ」
「いっひっひ、良かったじゃねぇか真里亞」
「まりあお姉ちゃんのばらかえってきたの?」
「うー、帰ってきた、帰ってきたの! 縁寿も一緒に育てよう?」
「うん!」

先程とは一転して、和やかな雰囲気になる。
譲治はそれを満足げに見つめると、「僕達は少し用事があるから」と再び部屋を出た。

夜が深まるにつれ、轟音とともにその勢いを増す風雨。
薄暗い廊下を小さな灯り一つで歩く二人。

「あれで、よろしかったのでしょうか?」
「うん、真里亞ちゃんも喜んでいたね」

紗音は使用人服のポケットをまさぐり、可愛いらしい桃色の小袋を取り出す。
袋の口は締められた痕だけはあったが、今はなにも付けられていない。
中には沖縄で譲治と買った、お揃いのペンダント・ネックレス。
大して高い物ではないが、大切な思い出の品。

「モールだけとはいえ、勝手にあげてしまったの、怒ってるかい?」
「では、譲治さんは先程私があげたことを怒っていますか?」
「あはは、全然。だいたい、ペンダントの方をあげたわけじゃないしね。気にすることはなかったね」
「ええ、そうです。……それに、"それ"もあまり重要じゃありません」

譲治がそうだね、と言って。
湿気を含んだ床に、僅かにずれた二つ分の足音が響く。
それは、段々と従兄妹部屋から遠ざかって行った。


*   *  *  *   *


譲治達が出て行った後の従兄妹部屋。
朱志香は薄手のカーディガンを引っ張りだして、それを片手にノブに手をかけた。

「んじゃ、私もちょっと出るぜ! その……」

紅を挿したようにはにかむ。
毎年のこと。そろそろだろう、と考えていた戦人はニヤリと口端を吊り上げた。

「いっひっひ、童話の住人は辛いよなあ? 朱志香も兄貴達もよ。ま、こいつらの面倒は任せとけ! いつものことだからなぁ?」

主人と使用人の恋。
譲治達はともかく朱志香と"彼"はまめに会えるのに、と思うのだが、親達が親族会議に夢中なこの日は目を盗み易いらしい。

「……さんきゅ。あ、戦人お前、光源氏は駄目だぜー?」
「は? なんだそりゃ」
「わかんないなら問題ないんだぜ!」

仕返しとばかりに嫌みったらしく笑う。

「ったく。あのなぁ、真里亞は妹分なんだぜー」
「わかってんじゃねーか……」


*   *  *  *   *


轟く雷鳴と窓を打ち付けるイグアスの滝。
その音も掻き消される程に、ごうごうと燃え盛る炎。
周りに、数名の男女がいる。

「まさか、貴女方の助力が得られるとは思いもしませんでした」

中に入れられた亡き殻を見つめ、夏妃が呟く。

(――お許し頂けるのでしょうか、お義父様……)

あと一年、否、あと半年でいい。
時間が欲しい。だから時が経てば、"お義父様"をきちんと埋葬する――――。そう誓っていた。

でも、もう。
それは出来ない。

燃え上がるそれは肉体なのだから。
こんなものは、火葬だなんて呼べない。処分。
かつての当主はボイラー室の赤い犬に凌辱されている。
焦げた肉塊の腐臭しかしない。

「感謝する。これは右代宮を守る為なのだよ」

同じように沈痛な面持ちの蔵臼。
言葉とは裏腹に、彼も亡き実父の誇りを辱める行為に、少なからず苦しんでいるのは間違いない。

臭いが漏れぬよう締め切られた密室。
立ち込める煙を逃がす為、夏妃は仕方なしに中庭への戸を開ける。
お願いだから誰も気付かないで。

「それで? お前達はなにを要求するつもりなのだ?」

蔵臼は夏妃に背を向けたまま、協力者達に問い掛ける。
協力者達は、嗤った。

「※※※※※※※」
「――――ッお、お前達は!!」






















アンタラノ死ヲ






――――

March.26.2010

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