桜の花の浮かぶ水槽で

不満だ。

この絵のどこにそんな魅力があるというのであろう。
確かに美人だ。それは認めよう。
あの厳つい当主が心底イレ込むくらいだからそりゃあこんだけ眉目秀麗でプロモーション抜群であろうよ。

だが問題はそこじゃない。
何ゆえに、皆が皆してこやつの肖像画にお悩み相談をしているかという話だ。

昼間はふとももを恥ずかしげもなく晒した―――人のことはいえぬが―――若い使用人が恋愛相談をしていた。絵に、だ。
自他ともに認める世話焼きな弟分の無愛想な少年が呆れておったぞ。
 

夜は明らかに自分の頭痛を悪化させるような髪型をした次期当主夫人がぶつぶつと独り言？　を言っておった。い、いいよな、独り言で。

年に数回来る母親の趣味丸出しハンドメイド服を着せられたロリっ娘も、あやつに話しかけておった。
無邪気なのは良いが、また母殿に叱られるぞ？
……ほら、言った通りではないか。

全く、この家は大丈夫か？　誰か相談役になってやるやつはおらぬのか。

…………わ、妾がやってやってもよいのだぞ？！
もちろん、妾が見えるヤツ限定でな。

おおせっかくだ、そこの肖像画、妾の寄り代になるが良い。

さあ、六軒島の悪霊、もとい魔女ベアトリーチェ様のお悩み相談会が始まるぜぇ！！

ナツメ《あなたの存在は私の悩みを軽くします》






それを見る度に、悔しくて悔しくて、仕方がなかった。

私が、彼の１番でいられなかった１２年分。
アルバムには、彼の隣で微笑む別の女と、その子供。

残された、或は棄てられた子供に、その全てを押し付けてやろうと考えた自分の思考回路は理解出来るし、今だって間違いだとは思ってはいない。

「これを機に、戦人と一緒に住みたいと思ってる」

良いんじゃないかしら、と紡ぎだした声は震えてはいなかっただろうか。


またあの女が、写真立ての中を支配するの？

トリトマ《恋する辛さ》






「見える？　ママ、飛行機雲だよ、うー！」
「そうね」
「なんで飛行機が飛ぶと雲が出来るの？」
「うーん、説明して真里亞にわかるのかしら」
「うー、真里亞にはわからない？　ママは説明出来ない？　それなら魔法なんだね、うー！」
「そうね、きっと魔法だわ」

大好きなママに認められたのが嬉しかったらしく、桃色の小さなバックを振り上げてぐるぐると回し始める。

「うー、真里亞はママが大好き！」
「ママも真里亞が大好きよ」

“楼座、それは本当？”

どこからともなく声がして、心の中に木枯らしが吹き荒れた。
私は楽しそうにはしゃぐ娘をまっすぐ見ることができず、飛行機雲の先端を辿った。


ねぇ、ゆるして真里亞。
一方通行のこの関係に、満足している私がいるの。

あの人の為に生きるのが辛いから。
たまには私も、求めるだけだっていいじゃない。

サザンカ《ひたむきな愛》






「ベアト、なぁベアト。目を覚ましてくれよ………」
「……ん、どうした戦人ぁ」
「お前の寝顔を見るのは好きじゃねぇんだよ」

色々と思い出すからなぁ、と男は呟いた。

「おいおいひどいなぁ。それなら妾はいつ休めば良いのか」
「俺が眠くなってから」

じとりと男を睨みつける女は、何故か嬉しそうで。
（彼女の望んだ幸せ）
その複雑そうな表情に、男も唇を綻ばせた。
（取り戻した平穏）

二人は笑い合い、どちらからともなく抱き合う。
時の概念を持たぬそこで、何度も、何度も。






どうか思い出して。
そこがあなたの居場所ではないことを。

もうひとりの私が、泣いているから。

――――どうして、帰って来てくれないの？

私が、歎いているから。

――――。

勿忘草《わたしを忘れないで》






厳格で、冷酷なひとでした。

「お前は我が右代宮の隷属下にある。ただ借り腹として蔵臼の子を産め。それだけだ」

きっぱりと言い切られた時、がんじがらめの呪縛の一方で確かに解放されたのです。
同情で中途半端な態度を取られるよりはずっと良いと。
この人は覇者として君臨するに相応しい人間なのだと。

認められたかったのは、誰よりもあなたなのです。
あなたに娘と認められるなら、借り腹でもなんでも良かったのです。

そっと、かつてはほんの少し指先で触れることすら叶わなかったあなたの頬に、触れました。
今のあなたは、動きません。
今のあなたは、生きています。
今のあなたは、死んでなどいないのです。
今の。

紫陽花《貴方は冷たい》



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花言葉で１０のお題・End

素材元BITDRESS様

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（色々と解釈がひどい……すみません……）