桜の花の浮かぶ水槽で
鯖も泳いでます
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Noi abbiamo una benedizione a noi 6
ミヨは今にも駒を食べてしまうのではないかと思えるほどに前のめりになる。
「待て」をされた飼い犬のよう。
そこの黒猫の方がよっぽど人間的だ。
「待て」をされた飼い犬のよう。
そこの黒猫の方がよっぽど人間的だ。
「さあ十八、この謎が解ける?」
「あ、あ……」
「もう1手指すわ。これならどう? 『右代宮戦人』なら、どうしたと思う? あなたは、『右代宮戦人』の心を理解できる?」
「……右代宮戦人なら……」(俺なら……)
頭の奥で、誰かが語りかける。
それは、紛れもなく、自分。
右代宮戦人が、彼が見た真実を、彼が十八から抜き取った真実を、教えようとしている。
――本当に、教えようとしているだけなのだろうか。
右代宮戦人は、自分の身体を、取り戻そうとしているのではないか?
尚もミヨは手を進める。十八の手足が冷たくなり始める。
「その反証を認めないわ。あんたには、そんな屁理屈よりよっぽど効果的な返し手が打てるでしょ?」
そうだ、今の手は誤り。こんな事は実際には“な”かったのだから。
……はっきりと覚えてる。刻み付いている。
あの日、あの島で、何があったのか。
――私は、俺は、覚えている。
真相は*****が****で****ッ!
お前は*****!!
「あ……ああぁぁぁぁあああああッッ!!」
精神の均衡を無くす。
目に赤赤と鬼火を燃やして、侵食されまいと足掻いて。
――そして、至る。
ひゅうひゅうと風の音がする。
そこは、煉獄だった。
煉獄山の山頂の、少し手前。
ダンテはベアトリーチェの元に行かなくてはいけないのに、それが出来なくて、立ち竦んでいた。
「漸く、開けてくれた。外は寒かったぜ」
「……」
「格好つけて出てったのにさ、唯一の鍵を中に置き忘れて、人間世界に換算して12年も帰れないなんてな。おいおいはじめの倍だぜ。成長とは逆の方向に進んでるんじゃねぇか、俺」
右代宮戦人は、十八の記憶と寸分違わない姿で、苦笑していた。
戦人は12年前で止まっている。十八が受け入れない限り、彼の時計は回らない。
「私が、閉ざしていたから――」
「いやさ、誰もいない完璧な密室にたった一つのその部屋の鍵が置いてあるって、論理的に不可能だろ? だから内側から閉める人間が必要だったんだ。それをあんたに押し付けちまった。だから俺は、あんたに礼を言わなければいけない」
互いに、考えていたよりも穏やかな邂逅だった。
けれどそれも、ここまで。
「でも、ごめんな。俺はあんたに『俺』を、譲れないから。ベアトリーチェを抱きしめてあげなくちゃいけない。今度こそ、約束を守らなくちゃいけない。だから、ごめんな……」
「わかってます。けれど、私もただ、黙って渡すことは出来ない。だってこの感情は、あなたの物じゃない。もしもあなたの物だというなら、残して行ったあなたが悪い」
ひゅう、ともう一度、風が突き抜ける。
戦人に「もう少し火の中にいれば良かったとさえ思ったぜ」とさえ言わしめるほどに、そこは暖かさとは程遠かった。
その戦人が、憑き物が取れたように、微笑む。
「―― 一緒に、帰ろう」
「……え」
「驚くだろ。もっと好戦的なやつだと思ってただろ、俺のこと。まあそうなんだけどな、実際」
「……はい」
十八がそう答えたので、戦人は微妙な気分になっていた。
「あのな、俺が無理矢理取り戻さなかったのは、あんたの為じゃなくて自分の為なんだ。あんたの意志で此処に来るときでさえ、リスクは大きかっただろ? それが無理矢理だったら、俺が目覚める前に肉体のほうがぶっ壊れてたさ。だから、待ってた。お前がのこのこと現れるようなら、すぐにでも取って代わるつもりだったぜ。今だって、お前が拒むなら手加減する気はない。ただ、運良くお前と会話が出来てるからさ。お前が受け入れてくれるなら、俺は確実な方を選びたい」
十八には、断固拒否も出来た。
今は自分の身体なのだから、半分とはいえ、戦いもせず易々と譲る謂れはないと。
言おうと思っていた。
けれど、戦ったところで、勝てる可能性は、5分が良いところだろう。
12年も自分の物だったというのに、勝利に絶対の自信を持てないのは、戦人の方に絶対の意志が見えたから。
ずっと時を待っていたという、彼の。
――絶対の魔女の、加護が。
戦人は、形振り構わなかった。
戦人の、彼自身の美学で言えば、戦いもせず示談交渉など男らしくないと思う。思いはする。でも。
「半分だっていいんだ。これ以上、泣かせたくない。馬鹿だよな、もう充分、永遠とも思える時間を。……何度、裏切ったかもわからないのに。まだ、待っててくれてるんだ。だから、誇りも何もかも捨てても、帰らなくちゃいけない」
十八を見据えて、戦人はきっぱりと言い放つ。
「俺の回答は戦わないことだ。身を削る気はない。あいつを悲しませるだけだからな」
そして、山頂へ続くの門の鍵は、再び閉ざされた。
――――
January.18.2011
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