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桜の花の浮かぶ水槽で

鯖も泳いでます

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Noi abbiamo una benedizione a noi 7

客観的に言い表せば、衝動的な自殺未遂。
ミヨとの「ゲーム」の最中に突然錯乱し、事を起こしたらしい。
今の彼は、車椅子無しでは移動も出来ない。


理御は何故止めなかったのかとミヨに食って掛かるが、ミヨは気に留めない。
……だって彼女は、どこまでも魔女。絶対の決意を叶えるための犠牲なんて、知った事ではない。
彼女は彼女が約束したことを愚直に果たしただけだ。


何度味わったかわからない絶望の底に落とされ、12年前に、自らが犯そうとしていた罪に漸く気づく。
置いて行かれる方の身にもなってみろと。
今の彼と、かつての自分に言い募るのだ。






そして、目覚めた彼の言葉に、魔女の世界は再び一変する。



「ただいま、ベアト」

何を呑気なと、頬をはたいてやろうという気さえ沸かず。理御は立ち尽くす。

彼が拾われてきた日、目覚めた日。
あの日々と重なるように、上半身だけを起こした彼が、そこにはいた。
たった一言なのに、その声が八城十八のものでは無いことに、すぐに気づく。
自分のことをそう呼ぶニンゲンは、限られていた。否、彼はとっくに――ベアトリーチェの為に――魔術師としての生を選んでいたっけ。

「おかえり、なさ……」

応えようと思い、やめた。
そんな言葉より、こうして抱きしめるほうがずっとずっと伝わる。
漸く、ベアトリーチェは、戦人は、温かいという感覚を取り戻す。

2人きりの部屋で、二度と離して堪るかと、強く強く抱きしめ合う。
抱きしめるのには、腕と心さえあればいい。
あの時離れてしまった腕と、心があれば。

ベアトリーチェは、泣いていた。
再会が嬉しくて。その為に投げ払ったものの大きさに、胸が張り裂けそうで。
12年分の涙が溢れる。

「馬鹿……馬鹿戦人……」

妾、待ってたよ。
今度こそ、耐えて待ってたよ。戦人。
だから、すれ違わなかっただろう? 帰ってくる場所が、ちゃんとあるだろう?

「ごめんって……。でも帰ってきただろ?」
「遅すぎる!」

それでも、償いはまだ足りないのだと、言って欲しい。
その鎖から解放されて尚、戦人と寄り添えるほど強くはなれていないから。
あの島に、右代宮という家に、置き去りにしてきたものが多すぎて。
自分はまだ、踏みにじった数多の為に、「一緒に償う」しか生き方を知らない。

ベアトリーチェは、はっと気づく。
或いは、理御のうちのニンゲンが、気づかせる。

「……十八は、どうなったのだ?」

戦人は露骨に不満そうな顔をする。
誰が何と言おうと2人は完全に別物なわけで、自分が帰ってきたばかりだというのに、十八を慮る彼女の様子は、血族譲りの嫉妬心を燻らせるには充分すぎた。

「さあ? また出てくるんじゃねぇか、消えてないしな。あ、『試しに出してみろ』とか言うなよ? そんな簡単な話じゃねぇから。寝て起きたら変わっているかも知れないし、また別のきっかけがあるかも知れない。面白そうだから殴ってみるとかはやめろよ!? もしかしたら一生このまま……ってのは無いな。あいつの執念も相当なもんだ」


焦ったように捲し立て、最後にちょっぴり唸る。
その姿は、黄金の真実を自在に扱う無限の魔術師とは到底思えない。まあ、戦人だから仕方ない。

「俺は、八城十八が全てを知ったら、きっとどちらかが消える結末になると思ってた。でも、結局戦人が蘇っただけで、十八は消えちゃいない。確かに俺はずっとそれを望んでいたけど、実際選べたのは、奇跡みたいなもんだぜ」
「妾には、そなたは戦人に見える。だけど、ベアトリーチェの為に右代宮戦人を演じている十八にも見える」
「……いっひっひ、実は俺にもよくわからない。どちらも残ってることは、本当は喜ばしいことではないと思うんだ。だってそうだろ? これからずっと、これは本当に自分の身体なのかって。隙を見せたら乗っ取られるんじゃないかって、怯えながら過ごさなくてはいけない。それどころか、俺が俺だって確証も持てないんだぜ?」

わかったような、わからないような。
いや、分かっているはず。
嫌というほど理解しているから、自分は此処にいて、戦人に抱きすくめられている。

戦人の腕の力が、ぎゅうっと更に強くなる。
その力を静かに緩めると、ベアトリーチェの蒼く澄んだ瞳を見つめる。

「なあ。――お前を愛してる」
「……!」
「これだけは、何の躊躇いもなく言える。きっと、戦人と十八の総意だからだろうぜ」
「~~~~っ」

ベアトリーチェは真っ赤になって、ぱくぱくと口を動かす。反駁したいのに声が出ない。
漸くそれを断念すると、まるで体育座りをするように自身の膝と戦人の胸の間に顔を埋める。

「顔隠すなよ、……やっと、言えたのに」

戦人がどんな顔をしているのか、見たいような、見たくないような。
何にせよ今の自分を見られたくなくて。
いい年をして、なんて子供染みた反応をするのだろうと我ながら辟易した。

理御の中の『幾子』は、複雑そうに、「空気を読んで今は譲ってやる」とでも言うように、静かに見守る。
或いは抱きしめている肉体は『彼』と同一だということに、彼女もまた狼狽えているのかも……?


自分達は決めなくてはいけない。もう一人の自分と付き合い続ける覚悟を。
運が良かったのだ。お互い。もう一人の自分が惚れた相手が同じで、違ったから。
自分に対する独占欲とかそんなものは、きっとそれはそれでとても愉快な喧嘩になるだろうな。

「……なあベアト。幾子さんは?」

戦人がそう問うと、少しばかり静寂が襲う。
ベアトリーチェは静かに首を振った。
その意味がわからず、彼は首を傾げる。

「そなたが馬鹿なせいで、間に合わなかったせいで。あの人に、あの人の願いの続きを見せてやることが叶わなかったのだ」











静かに厳かに執り行なわれた葬儀も終え、2人は八城幾子の書斎を片付けていた。
八城十八名義で世に出された幾子達の著書は、積み上げて思わず感嘆出来るほどにまで昇っていた。

原案者も執筆者も――精神的なそれも含めて――量産出来るほどの健康状態は長くなかった故に、年月を考えればそれほど多くはなかったが、並べてみるとそうは思えない。
しかも、不思議にも追い詰められていた時期のもののほうが評価が高かったりする。
ひとつひとつが、無限の世界のカケラ。ここにある全部合わせても、完成しない世界のカケラ。


「八城幾子の名は妾が継ぐ。ニンゲンの妾が名を欲しがっておるのでな」

肉体が理御で、魔女はベアトリーチェ。そしてニンゲンが、幾子。
ううん、これよりは、この肉体を八城幾子としよう。
だから、魔女がベアトリーチェでニンゲンが理御だ。

――幾子、か。

本当は、12年近くも前にとっくに「貰って」はいるのだけれど。
継ぐということは、名乗るということ。

『私』が『あなた』を愛してから、19年。
今より他に、この名の継承に相応しいときなどあるものだろうか。

「だから八城十八はこれからも、2人で1人の作家として、みんなに無限の世界を与える物語を書き続ける」
「4人で1人じゃねぇの?」

戦人がそう言うと、ベアトリーチェは腹を抱えて笑った。

今のところ、『もう1人の自分』というヤツとも折り合いは付いている。
さすがに「8時間交代制」などという都合の良い話にはならないが。
ちなみにその楽観的提案をした者によると、12時間交代でないのは、いつも同じ時間ではつまらないという意図だったらしい。もちろん前述通り実現は不可能。




描こう、と戦人が言った。

「彼女へ贈る物語を。そして俺達の物語の終焉を」
「そうであるな」

低めの声色だったからか、何を勘違いしたのか戦人が釘をさす。

「勘違いするなよ、終わらせるのは物語だけだ」
「分かっているさ。そなたなんぞに言われなくても」

分かっているさ。先なんてこれから、目眩がするほど長く、この目に映っている。
それはまるで、無限のように。
でも、きっとニンゲンの世界は有限。
終焉は、向こうの方から勝手に来る。それはあまりにも呆気無く。

大切なのは、それまでの時間をどう生きるか。
死ぬために生きるのか、生きるために生きるのか。或いは、そこにいる誰かのための生か。
何にせよ、ルーレットの回し方は改めねばならない。
どれほどの一瞬の恒久を、愛しい人と、どのように生きるのか。
そんな風に考えることは、悪い気分になりようもなかった。

(そして願わくば、終幕の時も、その先も、あなたと寄り添えるように)


(私たちに、祝福あれ……)












――我が娘よ、聞いてください。私が恋焦がれた相手は、添い遂げられない人でした。ここに眠る彼に、とてもよく似ていました。


――あなたの恋を阻んだものが血の宿命ならば、私だって彼と添い遂げることは出来ません。


――それも私の罪ですね。けれど、あなたの想い人は生きている。私の想い人は、とっくに死んでしまった。死んだことにされた私と、生きたことにされていた彼。生き別れた上に死に別れてしまった。


――どうしてですか、お母様。何故それを、今、私に?


――あなたを置いていくことを許してください。私の可愛い娘。あなたは私ではない。どうか、私には遂げられなかった想いを、……私には堪えられなかった想いを、……あなたが遂げて。











――それだけが、私の望みです。



End

――――

January.19.2011

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