桜の花の浮かぶ水槽で

パンドラの箱は開かれました。

蓋を開けた途端、世界には苦痛が、悲哀が、悔恨が、呪詛が、原罪が……広がってゆきました。
私は、何ということをしてしまったのだろうと、後悔しました。

箱の中には、希望がありました。
飛翔せずに、そこに佇んでいました。

それはきっと永遠に、箱の中にあるものだから。
永劫に、取り出せはしないものだから。

箱の中には苦痛も悲哀も悔恨も呪詛も原罪もなく、ただ希望だけがありました。

けれど、私は箱庭の扉をくぐることを決めました。
このとても幸福な小さな箱を抱きしめるために、箱の外で生きることを決めました。

さようなら。みんな。

そしてありがとう。
私が忘れていた、１番大切なことを教えてくれてありがとう。

さようなら。
でも、いつも一緒だよ。

さようなら。
私が本当の反魂の魔女になれるまで。


――片翼の鷲は、振り返らない。


だから、もしもこの日を振り返る日が来たなら、それはもう１つの翼を見つけたとき。
そのときは、よく頑張ったねと目一杯褒めて下さい。
もう大丈夫だねと私を認めて下さい。

そのときこそ、私は真に飛び立てるのだから。



――みんなの最後の娘であり孫であり、最後の魔女、縁寿。



（そうして、私達の希望であるその天使は、真の無限の世界へと羽ばたいていったのです）